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【第13章】 家庭の問題を社会の知恵に変える——人権・心理的安全性・ガバナンス


◆ この章でお届けしたいこと: 家庭で起きることと、職場・学校・社会の人権問題は、別々に見えてつながっていたりします。職場や学校や社会での悩みや不安が、家庭内で感情のはけ口として、児童虐待につながったりしかねません。逆に、家庭での問題に心を消耗させられ、仕事や学業などでのパフォーマンスが落ちかねません。つらい経験を、負の影響の連鎖遮断と、家庭のガバナンス構築への知恵に転換してみましょう。

1 家庭は「社会の最小単位」

 私は、お仕事として、企業や自治体などのガバナンス構築や、ビジネスと人権の啓発・人権救済や、リスク管理や、ダイバーシティ対応など、幅広い分野にわたって指導しています。
 それらの観点で家庭を見詰め直すと、ある程度、共通する要素が見えてきました。
 「優越的地位」を持つ者が暴走しにくい仕組みや、問題について声を上げやすい仕組みと報復の防止や、異論を恐れずに言える心理的安全性の醸成や、外部へ相談できるルートの確立など…。
 これらは会社でも家庭でも、お互いに幸せになりあうために、多様性・個性・価値観・可能性を公平公正に尊重して受け入れあう上で、大切にしたい共通するポイントが見つかりました。
 その中で、主にお伝えしたいポイントを、以下にまとめておこうと思います。
 まず、リスク管理の観点からは、家庭の心理的安全性や良き関係を保つために、3つの原則に沿って対応することです。

 家庭でも職場でも活かせる「3つの原則」
 ① ダメージを最小限にする(ダメージ・コントロール)
 ② スムーズに関係を修復できるように努める(リカバリータイムの短縮)
 ③ 次に同様の問題が起こった時に備え、備えを積み増す(問題に直面して乗り越えた経験を、負の連鎖を断ち切る教訓や知恵に転換する)

 この「3つの原則」って、かっこよくいえば、「レジリエンス」(粘り強く立ち直る/立て直す力)のポイントだったりします。
 災害対策やBCP(事業継続計画)でも大切なポイントです。
 また、組織運営面では、性善説で必ずしもうまく行くとは限らないものの、「人はそもそも悪いものだ」とい うネガティブな疑い型での性悪説でも、必ずしもうまく行かない面があります。
 私としては、性善説か性悪説かどちらか、ではなく、善良な人も悪事を企む人も、そもそも、問題を起こしにくい/問題が起きにくい取り組みをしておくことが重要だと思っています。
 たまたま、善良な人であれば、「あぁ、ちゃんとした取り組みがあって安心ですね」で済みますし、悪事を企む人であれば、「チッ、好き勝手にしにくい環境だな」と、悪事を予防したりけん制をかけたりしやすくなるという感じです。
 家庭では、その取り組みとして、閉じた環境で親の好き勝手に暴走しても、外部に知られず隠蔽もしやすい、という家庭環境から、いつでも警察や児童相談所や各種の相談窓口などを、親が積極的に子に案内し、毒親として暴走するのを防ぐと良さそうです。
 会社ですと、公益通報者保護制度の周知徹底という感じで、内部通報(会社の内部の人が内部の通報窓口に通報するもの)や内部告発(会社の内部の人が社外の監督官庁やメディアなどに通報するもの)など、少しでも風通しの良い環境づくりが求められています。
 家庭のプライバシーは大切、でも、隠れ蓑にしないように…。
 会社でも家庭でも、良い経営者・良い親であろうとする気持ちに加え、もし、何か間違えたときには、正直に・正確に・正式に適時適切な対応で、過ちを謝罪して是正し、また同じ問題が起きにくいよう再発防止策を講じる、といったことが大切です。
 会社では、人権・倫理・コンプラアインスなどの研修を、役職員に提供することが多いですが、家庭では、どこまで啓発活動が進んでいるか定かではありません。
 私の自戒を込めた取り組みとして、日常的な「パパ学校」や家族でのドライブ中の何気ない対話・交流の中で、
 「親や大人と言われる人は、いつも正しいと言えるかな?」
 「先生や警察官や弁護士は、絶対に悪いことをしないかな?」
 「常識って誰が決めたんだろう?変えちゃいけないのかな?」
 「正義って、誰にとって、どう都合がいいものかな?」
 「人権って、どんなものがあるだろうね~?」
 などと、かくあるべし、という道徳っぽいお話しではなく、いろんな観点から物事を見つめ直して何が正しいといえるのかを見つめる倫理学っぽい感じで、啓発に取り組んでいたりします。
 異論や反論は大歓迎で、それらを通じて、さらに考えや対応が磨かれ、多様性を包み込むように反映していけるわけで、家庭という共生社会を親子・夫婦ともに築きあう大切な意見交流です。



2 親の職場ストレスが、家庭の人権侵害へ流れ込まないようにする

 仕事のことを家庭に持ち込まない。
 とか、
 仕事上の機密情報は、家族と言えども、当然に秘密にする。
 といったことは、良い心がけなのかもしれません。
 しかし、実態としては、仕事と家庭は完全には切り離せない面があるように見受けられます。
 それは、単に、仕事上の愚痴を家庭で言わないといったお話しではなく、職場でのハラスメントを受けた際の心のダメージや、過重労働などで心身の不調があると、家庭に戻ってその尾を引いてしまう面があり得るのです。
 また、逆に、家庭での悩みや不安などから、仕事のパフォーマンスが十分に高まらないような、心理的な影響が尾を引いたり、家庭の事情で休業したり、仕事と家庭は別々のようで関連していたりします。
 職場でのハラスメントや家庭での毒親問題など、人権・法令だけでなく、仕事のパフォーマンスや家庭の心理的安全性の低下などは、そもそも、無い方がより良いことですよね。
 職場でのストレスのはけ口を、家庭での子にぶつけたり、家庭での不和のストレスを、職場でのハラスメントとしてぶつけたりするなど、そもそも、どちらにも問題が無い方がいい…。
 企業が働く人の人権や心理的安全性を守ることは、従業員本人だけでなく、その家庭にも影響するでしょうし、経営者としても、職場も家庭も健是で、仕事に全力で集中してパフォーマンスを高められる方が、業績面でも安心だと思います。



3 毒親対策で学ぶスキルは職場でも役立つ…

 家庭は社会の最小単位で、会社は社会の中で経済活動をしています。
 どちらも、ともに、同じ社会の中にある場で、お互いに幸せになりあうために、多様性・個性・価値観・可能性などを、公正公平に尊重して受け入れあう活動をしています。
 毒親対策で身に着けたスキルで、例えば、
 心身の距離をとる・エスカレートしにくいよう工夫する
 といったことについて見てみると、職場でのハラスメント対策や、苦手な取引先のご担当者の方との対応にも、ほどほどの距離感でうまく付き合っていくために活かせそうです。
 正しいことであれば、影響を考えず、何を言っても良いか?
 については、職場でのコミュニケーションにも活かせるかと思われますし、商談や交渉の場でも、取引先の方々の心情を踏まえて、こじれにくい商談や交渉にする上で役立ちそうです。
 他にも、
 事実と評価を分ける(事実か・主観的な感想か)
 優越的地位の濫用を防ぐ(独禁法対応・取適法対応など)
 お互いの人権の尊重(カスタマーハラスメント対策の基本)
 など、毒親を反面教師にして身をもって学べることは、職場でも社会でも活かせる多様な学びなのです。
 どうせなら、毒親を反面教師にして活かすのを、良き家庭の構築だけでなく、良き職場づくりや良き社会づくりにも、余すところなく活かす方が意義深いように思います。



4 家庭のガバナンス: 親も子も対等な関係

 「ガバナンス」というと、上場各社の経営陣の方々に指導する際も、なんか堅い言葉としてとらえられたり、うわっ面の、ふわっとした理解で、自分の言葉での理解が進んでいなかったりする方々が少なからず見受けられます。
 念のため、私のオリジナル解説「銀行と預金者モデル」で、ガバナンス早わかり講座をお届けしておきますね。
 銀行って、金庫にあるお金は、銀行が好き勝手に扱っていいものではありません。
 私なりには、ガバナンスは、「しょせん借り物」なのです。
 銀行は、
 ① 預金者の方々から、お金をお預かりして、
 ② 株主などから資金をお預かりして、
 ③ 銀行員(労働者)からは、労働量をお借りして、
 ④ 社会からは経済活動の場をお借りして、
 ⑤ お借りしたお金を効率的・効果的に運用・投資して、
 ⑥ 儲かったお金からお駄賃として、役員報酬をもらい、
 ⑦ 銀行員には、お借りした労働力の対価を給料として、また、その労働力と一緒についてくる心身をメンタル不良や労災などなく健全にお返しして、
 ⑧ 預金者には元本と利息をお返しして、
 ⑨ 株主には配当や株価上昇でのメリットもお返しして、
 ⑩ 社会には「世の中家賃」として、社会や自然環境や社会問題の解決に役立つより良い企業の社会的責任でご恩を返す

 という関係にあります。
 銀行の敷地内にある金庫内のお金だからといって、私利私欲のために着服したら、銀行にお金を貸している方々が、俺の/私のお金を勝手に盗むな!と非難ごうごうになるわけです。

 同様にして、家庭のガバナンスを、仮に夫目線で整理してみると…、
 ① 夫は、妻や子から、家族の理解や協力をお借りして、
 ② 夫や妻が稼いだお金を、家族の活動資金・生活費としてお預かりして、
 ③ 地域社会で家族が生きていく場をお借りして、
 ④ 夫が好き勝手にしていいのではなく、妻や子に最善となる活動資金・生活費の活用をして、
 ⑤ 家族がお互いに幸せになりあう提案や活動を進め、
 ⑥ その成果として、父の日に心温まるメッセージカードをもらえることがあったりして、
 ⑦ 妻や子に、理解や協力への感謝とねぎらいを伝え、
 ⑧ 地域社会に多少なりともお役立ちする

 といった、家庭の運営をしている感じかもしれません。
 あくまでも、ガバナンスは「借り物を大切にお預かりして活かし、相手の最善となるよう尽くし、プラスにしてお返しする」ということですので、運営するトップが偉いわけではありません。
 また、家庭の場合は条件付き愛情ではなく無償の愛情で、会社とは全く同じではないでしょうが、同じなのは、会社の労働者や家庭の家族は、経営者や親の好き勝手にしていい所有物ではない、ということだと思います。
 親が偉いのでもなんでもなく、家族からお借りしてお預かりしている信頼や理解や協力を、必要な責任や義務を負いながら、みんなの幸せになるよう活かす代理人、という感じでしょう。
 親の都合が良いかどうかに関わらず、子にとって最善となるよう尽くせたか、親としての優越的地位の濫用なく、子の心身を安全に守り育み、寄せてもらった信頼をプラスにして報いることができたか…。
 こういったことが、家庭でのガバナンスとして、親が気を付けておきたいことのように思います。

◆ 家庭で人権を大切にしていくことは、職場や学校でも人権を大切にしたお互いに幸せになりあう良き組織運営の出発点になりそうです。逆に、職場や学校で人権を大切にしていくことは、家庭での負の影響や問題やそれらに伴うストレスなどを軽減し、職場や学校でより良いパフォーマンスをあげる出発点になりそうです。



5 家庭ガバナンスの4つの柱

 私は、こういった「家庭ガバナンス」を、家族を監視したり支配したりするための仕組みではなく、家族みんなが寄せてくれた信頼や理解や協力を、家族の最善とお互いの幸福になるよう活かし、他の家族の代理人として誠実に活動することととらえてみました。

 「家庭ガバナンス」では、次の「4つの柱」が重要と考えています。

① 説明責任——親の判断を、「親だから子は黙って従えばいい」ではなく、心身の成長に応じた説明の仕方で、「なぜ、こうした方が良さそうか」「なぜ、こうすることがお互いに幸せにつながりそうか」「なぜ、こうすることが子の最善につながると思うのか」といった理由をわかりやすく伝える。

② 異論を歓迎する——親と異なる意見や反対意見を、反抗や裏切りと決めつけず、子が安心して自分の意見を持って話せることや、家庭という多様な共生社会をより彩り豊かにする良きこととして尊重する。

③ 修正する——親も子も、同じ間違いをおかし得る人間同士という前提で、改めるべき点は親であるか子であるかに関わらず相手に謝罪し、より良き関係性を深めて行けるよう努める。

④ 外につながる——家庭が閉ざされた隠蔽天国とならないよう、学校・医療機関・福祉機関・相談窓口など、家庭外に支援や相談を求めることのできる道をオープンにして、親自身の暴走も防ぎやすいようにする。

 「4つの柱」をもとに、少しでも良き家庭を目指して行ければ幸いです。

◆ 今日の一歩:家庭の中に「説明する・異論を言える・間違いを修正できる・外に相談できる」の4つのうち、足りない仕組みがあれば、1つずつ補っていきましょう。





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