『がんと心のリゾート: がん患者のメンタルケアと闘病を支援する家族の視点』

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「リゾート」は場所ではなく、心の安全基地

 タイトルに「リゾート」の言葉が入っていますが、何かお気楽なお話しとか、物事を軽んじてのことではありません。
 病気や心の不調に向き合う日々が厳しいからこそ、安心して力を抜いて、あるがままにいられる場所が必要だと感じています。
 何となく、「リゾート」というと、海辺のラグジュアリーなホテルとか観光地を思い浮かべがちかもしれません。
 確かに、英語の「リゾート」の意味として、人が多く集う場所や観光地という意味はあります。
 それ以外に、「リゾート」の意味として、最後の手段として頼ることや、最後の手段として頼りになる人、という意味もあります。
 「がんと心のリゾート」は、そんな、「リゾート」に含まれた意味も踏まえながら、ふと、思い浮かんできた言葉です。
 なにも、観光地に出かけなくても、病気・メンタル不調などでの頼れる居場所は、ごく身近な「おうち」にもあります。

 ソファーで横になれること。

 苦しい時に、予定の変更をお願いしても責められないこと。

 泣いてもいいこと。

 好きなものを食べてもいいこと。

 助けてと言えること。

 何もできない日にも「ここにいていい」と思えること。

 そういったひとつひとつが、「がんと心のリゾート」という感じがしています。

 そして、そういった頼れる「心の安全基地」があるからこそ、だんだんと外へ出られるようになり。旅に行けるようになり、友人に会えるようになったりします。
 仕事をしたいと思えたり、故郷へ帰れたり、病気の話を自分の言葉で話せたり…。

 休む場所は、人生から退く場所ではなく、自分らしく「あるがままに生きていく」人生の安全基地でもあります。

 「おうち入院」は、病院と同じ環境を家庭で再現することを目指すものではありません。
 病院には病院の、家庭には家庭の、それぞれの良さがあると思います。
 家庭だからできる療養を探すことでした。

 朝、起きられなくてもいい。

 予定を変更したり延期したりしてもいい。

 何もできない日があってもいい。

 家族の誰かができる時にできる人がご飯を作ればいい。

 作れなければお惣菜とか買ってきてもいい。

 話したい時は、気軽に話していい。

 話したくなければ、同じ部屋でそばで黙っていてもいい。

 そんなふうに、「おうち入院」での生活の中で、「~しなければならない」を少しずつ減らしていきました。
 つい、誤解しがちかもしれないのは、「回復」は、元の同じ状態に戻ることではなく、心身の安定を取り戻しつつ、新たに自分らしくあるがままに生きて行ける状態に至ること…。

 病気になる前と、同じ状態でなくていい。

 以前のように、バリバリと何でもこなせなくていい。

 以前のように、ムリができなくなってもいい。

 むしろ、

 以前のままだったら、新たな道に踏み出せてないかも?

 以前と同じだったら、自分らしさを見落としていたかも?

 以前とは違って、あるがままに生きていけばいい!

 病院でも「おうち」でも、療養期間は、心身の回復と併せて、人生観のバージョンアップ期間かもしれません。
 どこか遠くの国に、「自分探しの旅」に出かけなくても、自分の心や家庭の中で、自分なり・家族なりの「答え」を見つけられるかもしれません。

 以前と同じように、自分のことを嫌わずにいられること。

 自分が疲れている・負荷がかかっていると気づくこと。

 そして、しっかりと、心身をセーブして休めること。

 SNSでキラキラして見えるような、どこかの誰かと比べなくても、自分の人生を自分のペースで歩めればいい…。

 それも、しっかりと着実な回復なのだと思います。

 妃美ちゃんは、がんをきっかけに、一度、自分自信を見失いました。
 しかし、その後の回復への日々は、「自分を大切にする」ということを、ひとつずつ大切に学び直す時間になりました。
 私は、講演・経営指導・メディア出演などで、危機管理、ガバナンス、レジリエンスなどをお話ししてきました。
 しかし、一番身近で、一番大切な妻の危機に直面したとき、一番大切だったのは、高度な理論でもなく、

 そばにいること。

 話を聞くこと。

 休める場所を守ること。

 必要なときに専門家へつなぐこと。

 今日をムリなく終えること。

 そして、明日も、また、一緒にいること。

 「がんと心のリゾート」という言葉で、病気やメンタル不調などを美化する意図はありません。
 がんもメンタル不調も、本人にとって、とてつもなくつらい面があります。
 だからこそ、そんなつらい日々の中にも、リゾート地でのバカンスくらいに、ゆったり心が休める居場所が必要です。
 病気を忘れるためというより、病気や不調に振り回されないで、人生を歩んでいけるように…。
 大変な状況にあっても、その状況に心が振り回されないでいられるように…。

 泣いてもいい場所。

 疲れたら横になれる場所。

 笑えるときには笑っていい場所。

 好きなものを好きと言える場所。

 「自分のペースで大丈夫」と言ってもらえる場所。

 その「心の居場所」のひとつが家庭であり、「おうち入院」なのでした。

 そんな経験を「がんと心のリゾート」として、同じように、がんや心の不調と向き合う方々に、お伝えできれば幸いです。

 誰かの人生を代わりに歩むことはできません。

 でも、隣で寄り添って歩むことはできます。

 ペースも、合わせることはできます。

 転びそうなときには、そっと手を差し出すこともできます。

 そして、立ち尽くす人に、「急がなくていいよ」と言うこともできます。


 自分のペースで、大丈夫

 アップしても油断せず、ダウンしても悲観せず

 これからも、一緒に歩んでいこう


 「おうち入院」を通じて、深いところで、家族の絆が深められたように思います。
 (妃美ちゃんがイヤでなければ、これからも、一緒に歩ませてもらえたら嬉しいなぁ~。)